3人目 第参話

「喜べ、少年!」
「ちょ、ちょっと、いきなりドアを開けないでください!」
「お前の教育プログラムが出来たのだ! 定期的に試験をしてくれるのだ! さあ、喜べ!」
「う、嬉しくないですよ、そんなの」

そんな訳で、シンジの囚人生活はまだ続く。

しかし、囚人という表現は当てはまらない。
実をいうと、シンジは外敵からの保護のために収容されていたのだ。
エヴァパイロットともなれば国家機密レベルの存在。
究極の決戦兵器であるエヴァともなれば、何処の国、何処の団体が狙っているか知れたものではない。
シンジやレイこそ、その鍵とも言うべき存在なのだから。

シンジは監視員に尋ねる。
「綾波レイは今はどうしてるんですか?」
「安心しろ。決して悪い扱いを受けてはいない。しかし」
「え?」
「お前よりも条件は厳しい。このように外出することなど許されてはいないのだ」
「そうなんですか……」

それは監視付きで、施設の中庭を散歩中のことだった。
それすら、とても外出などと呼べたものではないのだが。

とりあえず、久しぶりに外に出たシンジ。
そして次はどんな手紙をレイに出そうかと考えながら、シンジは季節の風を感じ取る。
初めての肌寒さというものを。

シンジは監視員に尋ねる。
「あの、気温が低いですね」
「聞いて驚け。日本に秋が訪れようとしているのだ」
「秋? 昔の、いわゆる四季が戻ってきてるんですか?」
「そうだ。お前の歳なら四季の移り変わりを知らないだろう」

シンジは不思議な面持ちで、地面に舞い落ちた紅葉の葉を拾い上げた。
赤く色づいていて、とても綺麗だ。
なんとなく、レイの赤く美しい瞳を思い出す。

……そうだ、とシンジは心に決めて、紅葉の葉を手に立ち上がる。

部屋に戻ったシンジは一冊の詩集を開く。
秋をテーマにしたお気に入りの詩を選び、そのページに先程の紅葉の葉を挟んだ。
外に出られないレイの為に、季節の便りという訳だ。

「あの、これを綾波レイにお願いします――」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「綾波さん、これを」
女性監視員から、レイは一冊の本を受け取った。

「?」
「碇シンジ君からです」

レイはどうしたものか、と考える。
右手にシンジから受け取った詩集、左手にも同じ詩集。
ブックカバーもまったく同じ。

レイは本を女性監視員に突き返す。
「あら、いらないの? それじゃ、シンジ君に返しておきますね」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「そんな訳で、まったく同じ物を読んでいたそうだ。ハハハ、めげるな少年!」
なんだか楽しそうな監視員から、詩集をそのまま返却された。

シンジはがっくりと膝を付く。
秋の香り漂う栞もそのままに、自分の手元に戻された。

「そうか。綾波もこの詩集が好きなんだね。あはは……」

そのことだけ。
そのことだけを心の慰みにして、シンジは思わず口ずさむ。

「あーきのゆーうーひーにー、てーるうやーまーもーみぃじー……」

シンジ、くじけるな。
明日という日は必ず来る。

(続く?)
最終更新:2009年03月28日 21:58
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