「喜べ、少年!」
「ちょ、ちょっと、いきなりドアを開けないでください!」
「お前の教育プログラムが出来たのだ! 定期的に試験をしてくれるのだ! さあ、喜べ!」
「う、嬉しくないですよ、そんなの」
そんな訳で、シンジの囚人生活はまだ続く。
しかし、囚人という表現は当てはまらない。
実をいうと、シンジは外敵からの保護のために収容されていたのだ。
エヴァパイロットともなれば国家機密レベルの存在。
究極の決戦兵器であるエヴァともなれば、何処の国、何処の団体が狙っているか知れたものではない。
シンジやレイこそ、その鍵とも言うべき存在なのだから。
シンジは監視員に尋ねる。
「綾波レイは今はどうしてるんですか?」
「安心しろ。決して悪い扱いを受けてはいない。しかし」
「え?」
「お前よりも条件は厳しい。このように外出することなど許されてはいないのだ」
「そうなんですか……」
それは監視付きで、施設の中庭を散歩中のことだった。
それすら、とても外出などと呼べたものではないのだが。
とりあえず、久しぶりに外に出たシンジ。
そして次はどんな手紙をレイに出そうかと考えながら、シンジは季節の風を感じ取る。
初めての肌寒さというものを。
シンジは監視員に尋ねる。
「あの、気温が低いですね」
「聞いて驚け。日本に秋が訪れようとしているのだ」
「秋? 昔の、いわゆる四季が戻ってきてるんですか?」
「そうだ。お前の歳なら四季の移り変わりを知らないだろう」
シンジは不思議な面持ちで、地面に舞い落ちた紅葉の葉を拾い上げた。
赤く色づいていて、とても綺麗だ。
なんとなく、レイの赤く美しい瞳を思い出す。
……そうだ、とシンジは心に決めて、紅葉の葉を手に立ち上がる。
部屋に戻ったシンジは一冊の詩集を開く。
秋をテーマにしたお気に入りの詩を選び、そのページに先程の紅葉の葉を挟んだ。
外に出られないレイの為に、季節の便りという訳だ。
「あの、これを綾波レイにお願いします――」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「綾波さん、これを」
女性監視員から、レイは一冊の本を受け取った。
「?」
「碇シンジ君からです」
レイはどうしたものか、と考える。
右手にシンジから受け取った詩集、左手にも同じ詩集。
ブックカバーもまったく同じ。
レイは本を女性監視員に突き返す。
「あら、いらないの? それじゃ、シンジ君に返しておきますね」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「そんな訳で、まったく同じ物を読んでいたそうだ。ハハハ、めげるな少年!」
なんだか楽しそうな監視員から、詩集をそのまま返却された。
シンジはがっくりと膝を付く。
秋の香り漂う栞もそのままに、自分の手元に戻された。
「そうか。綾波もこの詩集が好きなんだね。あはは……」
そのことだけ。
そのことだけを心の慰みにして、シンジは思わず口ずさむ。
「あーきのゆーうーひーにー、てーるうやーまーもーみぃじー……」
シンジ、くじけるな。
明日という日は必ず来る。
(続く?)
最終更新:2009年03月28日 21:58