第拾四話

「ようこそ、NERVへ!」

歓迎式典、というほどでもないが、その場に居合わせた職員達の拍手によって、渚カヲルは迎え入れられた。
その中で、私の時はこんなに歓迎してくれなかったと、愚痴るアスカのことはまあいいだろう。
歓迎する職員の中央に碇シンジの姿がある。カヲルはシンジにまっすぐに向かい握手を求めた。
「君が碇シンジ君だね?僕はカヲル。渚カヲル。」
「あ、ああ、よろしく。渚く……」
「カヲルでいいよ。碇シンジ君?」
「ああ……僕も、えーと、シンジでいいよ。」
シンジに親しもうと柔らかい笑顔で接するカヲル、しかし何故かシンジの顔は引きつっている。
「それでは、NERV本部をご案内いたします。こちらへ……」
マヤがカヲルを連れてNERV観光へと向かおうとしたところ、
「……マヤ。所用があるから誰かに代わって貰って。」
そう言ったのは、しかめっ面でカヲルを睨んでいたミサトであった。
そしてマヤの側に近づき、耳元でささやく。
(なんか、嫌な予感がするの。マヤはシンジ様の付き人として離れてはダメ。)
(え……はぁ……)
(それから、やっぱりウチに引っ越しなさい。命令よ。とにかくシンジ様から離れないで。)
(……はい。)
カヲルはご機嫌な様子で手を振ると、花のように色めき崩れる女性職員達。
彼はなかなかの美貌の持ち主だし、無理からぬことではある、が……


(おかしい。シンジハーレムと呼ばれているこの本部がこんなに沸き立つなんて。)
怪しむミサト。なかなか具体的に判っていることはないが、嫌な予感がしてならないようだ。
(先の使徒の件。輸送機に残っていた乗組員も全員感電死していた。)
つまり、松代に無事に到着したのはカヲル一人だけだったのだ。
到着後にカヲルはその事実を知ったのだが、それでも平然としている性格が気にくわない。
(確かにあの状況下では、ああするしかなかったけれど……)
そう頭を悩ませていたミサトは、ふっとシンジの方を見る。
カヲルから離れた後、表情からは笑みが消え手に握ったボールで握力を鍛え続けるシンジ。
どうやら、以前に性のうっぷんで悶々としていた時とは別の何かが、彼をそうさせているらしい。
(下ごしらえが済んだから……鍋を火にかけたって所ね……)
しかし、具体的なことは何も判っていない。少々、焦りを感じ始めているミサトであった。

(ダメだな……やはり、碇ユイの記録はほとんど残っていない。)
鍵がそこにあるらしい、と巨大なMAGIのデータベースを虱潰しに探りを入れる加持リョウジ。
改めて、ユイの画像を見直す。シンジと共に笑顔で移る母、ユイ。
残っている物と言えばそれくらいである。
(……ん?)
何を思ったのか、別の画像を画面に開く。それはNERV司令、碇ゲンドウのものであった。
(……)
その3枚の画像を並べて何かを考えていた加持であったが、ふと立ち上がって誰かを捜し出した。


「えーと、つまりDNA情報のコンペア……ですか?」
やっとマヤを捕まえた加持。
最近ではシンジにくっついていることが多く、一人で居るところを捕まえるのにかなり苦労をさせられた。
「ああ、そんな感じかな。頼めるかな……俺には難しくて。」
「簡単ですよ。フリーソフトでも探せば……ああ、この二つですね。」
「うん……」
しばらくして答えが出たようだ。画面の表示を見てマヤは加持に結果を告げる。
「赤の他人のようですね。」
「肉親では無い?」
「はい。肉親ならおおよその等親数が出るのですが……誰のです?」
「いや、判ったよ。ありがとう。」
そして、部屋からマヤとともに出る。
(だからといって……なんの足しにもならんかな……あ。)
またしても、である。
丁度シンジが通りかかり、二人が部屋から出てきたところを鉢合わせになってしまった。
それも、以前よりも怖い目つきだ。病的、と言っても良かった。
「何してたの?」
シンジはマヤに訪ねる。加持には挨拶もしなかった。
「い、いえ……加持さんにパソコンの操作のことで……いや、ホントです……」
マヤは慌ててシンジの腕をとりその場を去る。そんな二人を見送りながら加持は考えた。
(やはり、碇ゲンドウとシンジ君は肉親ではなかったのか。母親の物も手に入れたいところだが……)


その一件をミサトに告げた加持であったが、大して興味を示さなかったようだ。
「それがどうしたって言うの?」
「いや……葛城。何を調べても大した答えが出ない時には、こうしてパズルのピースを集めるしかない。」
「まだ、成果はそれだけ?」
「いや……セカンドインパクト、ゼーレ、NERV、シンジ君の両親、使徒、エヴァ、そして渚カヲル……」
「……?」
「それぞれを掘り下げれば、一つの線に繋がると思う。ゼーレの目的は一つだろう。」
「訳が判らないわよ。探偵さん。」
「あせっても仕方がない。が……急いだ方が良い。シンジ君がどうも気がかりだ。」
「……判ってるわよ。」

エヴァの格納庫。
そこを二人の少年が歩いている。それは勿論、シンジとカヲル。
その少し後ろにマヤがついてきていた。警告は受けていたものの、カヲルを咎める理由は見つからない。
「エヴァンゲリオン参号機……近接戦闘において、従来型を上回る強化がなされているらしい、が……」
虫も殺さないような笑顔でカヲルはシンジに話す。
シンジは笑って請け合っているが、なんとも微妙な苦笑いだ。
「僕自身は何だって出来そうな気がするよ。この参号機は最高だ。」
そう言ってシンジに微笑みかけるカヲル。
「僕は君の忠実なナイトとして敵から守る盾となるよ。安心してくれ、シンジ君。」
その時、カヲルは何を聞き取ったのか。シッと唇に指をあて、静かに、というアクションをして見せた。


しばらくして、本部内にサイレンが鳴り響く。
「どうやら、使徒が現れたようだ。行ってくるよ。」
そういって駆け出すカヲル。
「君は着替えずに司令部で見ていてくれ。」

騒然とする司令部。ミサトは必死であちこちに指示を飛ばし、司令塔のスタッフはかけずり回る。
「エヴァ機は全て起動準備!パイロットの搭乗準備、急いで!」
「まっすぐにこちらを目指しています!ああッ!第1から18装甲まで損壊!」
「馬鹿な!一撃で!?」
巨大な人型の第14使徒ゼルエルの姿がモニタに映し出される。
無駄なことは一切せず、必要に応じて目と思われる部分から閃光を放ち、邪魔な物は全て吹き飛ばす。
そして直進する先、すでにジオ・フロント内に侵入し目指すはNERV本部。

「焦っているのかな。さあ、来るが良い……目当ては僕なんだろ?」
そんなことをつぶやきながら、通信モニタのスイッチを入れるカヲル。
すると、司令部の混乱ぶりが伝わってくる。

「エヴァの発進準備はまだなの?アスカは?シンジ様は?」
「セカンドチルドレンは、いま本部に到着しました。シンジ様は……」
『僕なら準備OKだよ。』


スピーカーから聞こえるカヲルの声。既にプラグスーツに身を包んで、エントリープラグの中だ。
「……いけるの?すぐに初号機、弐号機も出撃させてバックアップするわ。」
『その必要はないんじゃないかな?ま、とりあえず見ていてよ。』
「ちょっと……」
そのカヲルの台詞、新参のパイロットが作戦部長に対して、とても叩けるものではない。
何て言って良いか判らなくなっているミサトを置いてきぼりにして、参号機は出撃する。
『多分、5分とかからないよ。行ってきます。』
そういって、邪魔なアンビリカルケーブルを外して出撃した。
そして、マイクには届かないほどの微かな声でつぶやいた。
「行くよ……人間というのが如何なるものか、見せてあげるよ。」

格納庫の扉が開き、まっしぐらに使徒へと突進する参号機。
武器は何も持っていない。プログナイフすら抜こうとしない。
そのまま強烈な頭突きを喰らわし、使徒は吹っ飛ぶ。そして、
「腕が……伸びた……!?」
驚愕するミサト、そしてNERV司令部。
参号機の腕が無機物のように伸びて、使徒の肩と思われる部分を掴み強引に引き寄せつつ、
そして自らも再び突進し、更に強烈な頭突きが使徒の胸部、赤いコアへと襲った。
「……む?」
凄まじい衝撃と耳を突き破るほどの轟音の中で、カヲルは眉をしかめる。


参号機が衝突する瞬間、コアの瞼が閉じて破壊されるのを防いだのである。
衝撃で再び倒れる使徒。しかし、よろめきながらも立ち上がる。
「なかなかやるね……シンジ君なら閉じようとはしなかったのかな?」
ニタリと笑うカヲル。それはもはや、シンジと話していた時の天使のような笑顔ではない。

再度、使徒を捕まえて腕と思われる部分を引きちぎる。
どのような生物にもない悲鳴を上げる使徒。構わず襲いかかる参号機。
コアが破壊できないなら構わない、というかのように徹底的に使徒を破壊しにかかった。
使徒の体を掴み、爪を食い込ませ、青い血しぶきを撒き散らせながら使徒を引き裂く。
「や、やめ……」
いつの間にか司令部に来ていたシンジは思わず叫ぶ。
使徒がもはや抵抗する力も無くしたように力を落とし、
参号機の目がスッと細められたように感じた、その時。

「使徒を……喰ってる……!?」
使徒の肉を食いちぎり、ズルズルと何かをすすり込み、グチャグチャとかみ砕く。
「うえぇッ!」
思わずシンジがえづいてうずくまった。
助け起こそうとするミサトもまた塩の塊にかぶりついたような顔をしている。


そんな機能が参号機のどこに有していたのか。
そんな疑問が浮かぶ中、それに答えるかのようにミサトは知っていることを唱え直す。
「エヴァンゲリオン……最初の使徒と呼ばれるアダムをコピーした……」
「参号機は制御を失っています!暴走状態です!」
モニタを眺めるマヤが叫ぶ。
もはやNERV司令部は何をしてよいのか、どう判断していいのか判らず固まってしまった。

「クックックッ……」
エントリープラグの中で笑うカヲル。
まるで部下に女を犯させて眺めている上官のようである。
さんざん使徒を食い散らかして悠然と格納庫に戻ってくるまでの時間は、
出撃から3分とかかっておらず、予備バッテリーを使う必要すらなかった。

「ねぇ……あのカヲルって何者なの?エヴァって一体……」
「……」
知ってるのか知っていないのか。ミサトの問いかけにリツコは何も答えなかった。
最終更新:2007年03月12日 16:51
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