総司令 第弐拾弐話

総司令執務室。

『さて、ご苦労だったな。シンジ君』
「いえ……」

暗い会議室の中、ただ二人。
僕の正面にはゼーレ議長のキールという男。

『使徒の侵入を許したのか。まあ、仕方あるまい』
「はあ……」

そりゃ仕方ないだろう。
使徒が侵入を許したとか言われても、その責任を追求されても困る。
それとも全て司令の責任になってしまうのかな。

『一杯、やらせてもらうよ。君も何か取り寄せて、くつろいではどうだ』
「いえ」
『そうか。それほど難しい話をするつもりはない。肩の力を抜き給え』

そう言いながら何か飲み出したキール議長。
力を抜けと言われても、こんなおじさんと差し向かえじゃ、ちょっとなあ。
時折、こうして呼び出されてはあれやこれやと話をしてる。
それもNERVの運営とか、そういう難しい話はしていない。するときもあるけどね。
僕の幼少の頃の話とか、日々の世間話とか、そういうたわいもないことばかり。

『そうか、友人は居ないか。それは何故かと思ったことは?』
「そう聞かれても判りませんが……まあ、自分のせいなんでしょうね」
『そう負い目を感じることもなかろう。あれはどうだ? 他のエヴァパイロットは同年代の筈だ』
「むしろ一番むずかしいです。ああいうの」
『ムハハ、そうなのか』

この人、僕の父親代わりを演じるつもりかな。
とかく僕のことを知りたがってばかり居る。

『ではまた話をしよう、シンジ君。ああ、それから』
「はい?」
『副司令の冬月が不在で停滞している事項があるはずだ。
 作戦部長の葛城一尉を昇格させて、その任務に当たらせたまえ。それでは』
「え? あの」

消えちゃった。
昇格って……どれくらい?

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「というわけで、あの……三佐に昇格です」
「はっ! 謹んでお受けします」

再び執務室。
何度も書き直しちゃった辞令をミサトさんに手渡した。
しかし、なんだこのデタラメな昇格。
戦死しても階級ってこんなに飛んだりしないんじゃない?

「まあ、いいわよ。これでいろんな事が言えるようになるし」
「はあ、そういうもんですか」
「ここではそうでもないけど、外向きの仕事をするときには三佐ともなれば違ってくるわ」
ミサトさん、そう言いながら受け取った辞令をピラピラさせる。
なんかどうでもよさそうだな、ミサトさん。

「……ミサトさん、あんまり嬉しそうじゃなさそうですね」
「そりゃね。お陰で仕事が増えるわ。お給料も増えるけど」

そう言って苦笑い。
昇進っていうのも、やっぱりそういうことなんだろうな。

「ところで、ミサトさん」
「ん?」
「ミサトさんはどうしてNERVの作戦部長をしてるんです?」
「私? そーねぇ……」

(ぴー、ぴー)
ん、内線。僕への呼び出し?

「ミサトさんごめんなさい。はい?」
『シンジ君、そろそろレイを連れてきてくれないと』
「ああ、マヤさん。すぐ行きます」
なんかにわかに忙しくなってきたな。
この調子でレイの保護者に加えて司令としても仕事が増えていくんだろうか。

「それじゃミサトさん先に行きますね」
とエレベーターのステップに飛び乗り、降下。

(え、あの、ちょっとシンちゃん? 先にいかないでよ。この部屋って、どうやって降りれば……)

あれ、なんか聞こえたかな?
さあ急げ、僕。
今日も忙しいぞ。

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大急ぎで自室に戻り、レイの手を引いて更衣室へ。
もう部屋にプラグスーツおいておこうかな。
なんか二度手間。

ん、アスカも来た。
僕の方を見たけど何も言わない。
やれやれ、今日も機嫌が悪そう。でも、機嫌を取る気にもなれないし。
いいや、どうでも。
「じゃ、レイ。早く着替えてきてね……え、アスカ何?」

アスカ、ふいに近づいてきて僕の腕を掴む。
な、なんだろ?

「水曜日」
「え?」
「水曜日って言ってんのよ! アンタが忘れてどうするのよ!」
ああ、そうか。注射か。

「でも、接続試験の時間が」
「そんなの後回しにしなさいよ! その子にとって一番の大事じゃないの!」
「そ、そうだね」
「まったく。司令なんでしょ? 時間なんてアンタの好き放題しちゃえばいいじゃない」

そんな無茶な、と思ったけどそれもそうだ。
必要なことは他を押してでもやらなくちゃ駄目だよな。

「ほら、さっさと医務室に連れて行きなさい。その子、ないがしろにしたら引っぱたくわよ」
「言われなくても……」
「でも、赤木博士いないんでしょ? 誰がするの?」
「ああ、医師の人が言付かっているから」
「そ」

アスカ、優しいのかなんなのか判らないな。
でも、こんなふうに怒ってるのがアスカの基本なのかも。
とりあえず急がなくちゃ。
「うん、マヤさん。レイの注射が終わったらすぐに行くから……」
そう携帯電話から連絡を入れながら医務室へとレイの手を引いていく。

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で、医務室。

「それじゃ、司令。腕を押さえててください」
と、其処にいる医師にうながされてレイの側に付く。

「伊吹さん、なんか言ってた? 大丈夫でしょ?」
ああ、アスカ。わざわざ付き合ってきてくれたのか。

「うん。急いで、とは言ってたけど」
「待たせりゃいいのよ、そんなもの」
ものってなんだよ。ものって。

少し眉をしかめるレイを押さえながらふと見ると、アスカは注射のアンプルを手にして眺めている。
「調べたの? これ」
「え、いやまだ……」
「トロイわね。だからアンタ、忙しいのよ」
「ど、どういう意味だよ」
「それが判らないから、アンタ要領が悪いのよ」

そんなよく判らないことをいうアスカの手から、
「ちょっとごめんね。それ、取り扱いが難しいので」
と、医師はアンプルを取り返す。
「……」
アスカは何も言わないけど、少しだけしかめっ面。

そして医務室を出ながら言う。
「何よ。空のアンプルじゃない」
「まあ、そうだね」

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はい、お次はオペレーター室。

エヴァに乗り込む二人をモニタでしばらく眺めていたけど、ひとしきりしたら行かなくちゃ。
この後でミサトさんと会議に出ないといけないから。
なんか大がかりなプロジェクトが始まるらしい。

そんな僕にマヤさんは言う。
「忙しいのね、シンジ君」
「まあ、そうですね。でもマヤさん、レイは今日は零号機なんですか?」
「そう、実験機体だった零号機に実戦に向けた改修が行われるから」
「へえ……」
「レイ向きの機能を限定した機体にするの。初号機って白兵戦が主体だから」

ふと気付いた。
「それって、ミサトさんのプロジェクトの」
「そうよ。全ての計画はリンクしてる。この零号機が中核になるわ」

ふーん、なんか凄いな。
と、感心している場合じゃない。そろそろ会議に……あ、まだ時間があるか。

「ねえ、マヤさん」
「ん?」
「マヤさんは、どうしてこの仕事を?」
「私? そうね……」

モニタに映る二人の画像。
レイはあいかわらずの、そしてアスカは普段とは違う澄んだ表情で、二人とも瞑想状態に入っている。

「私はコンピューター技師が本職だから。このMAGIが世界でも最高峰」
「つまり、技師として目指すべき仕事だったと」
「そうね。それに先輩、赤木博士に出会えていろんな指導を受けることが出来たから」
「……」
「MAGIが最高峰のコンピューターなら、私の知る限り先輩が最高峰の有識者だと思う」

なんか最高の賛辞だな。
マヤさん、本当にリツコさんを尊敬してるんだ。

「シンジ君にとっては、まあ……いろいろあったから、どう感じているか。先輩のこと」
「まあ、そうですね」

赤木リツコ博士。高名な赤木ナオコ博士の一人娘。
そのナオコさんって人、なんでも最先端の人格移植OSを開発した偉人とも呼ばれる存在だとか。
MAGIコンピューター、人と同等以上の認識力と判断力を持ち、
これまでのスーパーコンピューターを遙かにしのぐ処理速度を誇るという。
それが、なんと3台。それぞれが同じ仕事を同時に行い、多数決をもって決議をするという。
それこそがエヴァとパイロットとの神経接続を実現させた功労者であるとか。
……うん、僕にはなんだかよく判らないんだけどね。

「でも、マヤさん。使徒との戦いは、怖くないですか」
「そうね。それはそうだけど……」
「けど?」
「この戦いは人類の存亡がかかってるんですもの。そのための力になりたい、と思うのは当然のことだと思う」
「……」
「NERVに加わることなく戦っているのを眺めてるのも、ただ怖いだけ。そうでしょ?」
「……そうですね。その通りです」

その同意は自分の気持ちではなく、ほんの少しだけ同級生だった鈴原トウジのことを思い出したから。
そうか。人類存亡のためではあるけど、自分のための戦いでもある訳か。
自分が人のために働く善人でありたい、というようなことではなく。

僕は、どうだろう。
なんで司令なんてさせられてるんだろう。
僕はそればかり考えているな。

(ぴぴぴぴぴ……)
また僕の携帯が鳴る。

「あ、多分ミサトさんだ。マヤさん行ってきます」
「はいはい。試験が終わることにはレイを迎えに来てあげてね」

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そして、ひときわ巨大な会議室。

座席に並ぶ大人達。
その身につけている制服で判る、恐らく各国政府の関係者や軍部の面々。
むしろ日本人じゃない方が多い。本当に僕がこんなところに居ていいんだろうか。
僕の格好といえば、例によって父さんの上着をコートのようにひっかけただけ。
いや、下手にサイズのあった服をあつらえてまで、司令づらなんかしたくない。

そんな僕に会議の参加者は次々と笑顔満面で挨拶にやってくる。
いや、良い迷惑だってば。僕がどんなに居心地が悪いのか判ってないんだろうか。
多分連中は僕をマスコットのように見てるんだろうね。

「これは司令、お役目ご苦労様です」
「何もご心配なさらず、NERVは我々がしっかり支えて見せますよ」
「私の名刺を差し上げておきましょう。なにかあったらご連絡を」
しないしない。連絡なんてしないってば。

でも、思う。みんな僕が司令の椅子に座ってることなんてこと、本当にどうでもいいんだ。
みんなはそれぞれ、自分の職務を果たすことで頭が一杯。
みんな僕のことをそれほどなんとも思ってないし、それほど心配したりすることもない。
僕もまた、他人に対してはそれほど思ったり心配したりしてないから。

とにかく、そんな偉そうな連中を相手にまわして、ひときわ偉そうな態度でプレゼンに挑むミサトさん。
「……以上の通り、新兵器の主軸ともいうべき砲座は既に完成、あとはエネルギーシステムの構築です。
 既存の発電システムに加えて、非常時には市街向けのエネルギーを即時に転用する手段も整備し、
 その折りに必要となる日本国内に向けた新たな緊急体制に至るプログラムもまた……」
「いや、待ちたまえ。これだけの規模、メルトダウンの危険性は無視できるものではない」
「その通り、あのリアクター内蔵のジェットアローンに対し、強く避難していたのは諸君らではないか?」
「それに、費用の問題があまりに……」
「その通りです。だからこそ新しいものを作るつもりはありません。
 皆さんがお持ちの信頼できる安全なものを貸してくださいと言ってるんです。それなら費用も格安。どう?」
「……」

ま、なんだか判らないけどミサトさんがねじ伏せたらしい。
あの調子ならミサトさん、三佐に昇進なんて要らなかったんじゃないのかな。
しかし、まだまだ会議室は落ち着かない。
互いに隣り同士でガヤガヤやってる。

「自分の国の利益にならないからゴネてんのよ、みんな」
ミサトさんが僕の側までやってきて、そう囁いた。

「利益、ですか」
「更に言えばね。この兵器では他国への侵攻は無理でしょ? ピンポイントで狙って撃つだけだから。
 エヴァだったら既存の兵器が通用しないから興味津々だったのにね。役に立ちそうもないから出し渋ってんのよ」
「……どうして。この戦いには」
「そう。人類存亡を掛かってるのにね。でも私達、既に何体もの使徒を倒してるから」
「……」
「もう害虫駆除ぐらいにしか考えてないのよ」

みんな自分のことばかり、か。
なんで、こうも人間ってまとまりがないのかな。
どこかに地球で一番偉い人って居ないんだろうか。

「アハハ、やっぱり駄目かもね。ドケチ共め」
とミサトさんは苦笑い。
そりゃ国家予算なんだし、ジュースをおごるみたいにはいきませんよ。

あ……。

「ミサトさん、ちょっとすみません」
「え? どうしたのシンジ君」
さて、電話、電話、と。

『ほほう……これはめずらしい』
「キールさん?」
そう。ゼーレの議長、キールさんから連絡方法を貰っていた。何かあったら何時でも、と。
しかし、僕が事情を説明するとキールさんは不気味に笑う……ちょっと、不愉快。

『ムハハ、それなら私がどうこうするまでもない。君がその場で言いたまえ。命令だ、と』
「ええ? あの、それだけでいいんですか?」
『そうだ。以前から各国政府の足並みが揃わず物事が進まないことが多くてな。
 必要に応じて、NERVの意志が最優先できるように整備を終えたばかりだ』
「NERVが世界を指図できるってことですか? なんか、それって……」
『限られた事情のみだがな。しかし、行使する前には必ずこうして連絡をくれたまえ。では』
「あ、はい。ありがとうございました」

……しかし、キールさんとはあまり親しくはなりたくないな。
ま、ここはミサトさんのためでもあるし、仕方がない。

「ミサトさん、マイク貸してください」
「え、ちょ、ちょっとシンジ君」
「いえ、大丈夫です。えーと……(き~ん)……うわ、ごめんなさい。えーと、皆さん」
とっとっと、ハウリング。

すると会議室は静まりかえる。
う、ちょっと緊張。

「あの皆さん。えーっと、今回の議題、っていうですか? 提案じゃなくてNERV総司令としての命令なんです。
 よろしくお願いします」

ミサトさんは口を開けて、ぽかん。
いや、会議室一同すべての人も。

(ぴぴぴぴぴ……)

あれ、マヤさん。
あ、そうか。

「あの、ミサトさん。あとはお願いします……すみません、マヤさん。すぐレイを迎えに行きます……」

はー、忙しい、忙しい。

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『アハハ、それは傑作ね』
「でしょ、先輩? 葛城さん、もう目が点になっちゃったって」
『シンジ君、もはや世界の支配者ね』
「ですよね。今のうちにサイン貰っておこうかな」

ひとり、オペレーター室で作業を続ける伊吹マヤ。
どうやら業務報告も兼ねているのだろうか、赤木リツコとのビデオチャットを楽しんでいるようだ。

『ジェットアローンの開発とか、余計なことをされても困るものね。弐号機の運搬も色々ともめたし。
 それだけの権限をNERVが貰えたんですもの、今後はやりやすくなるわ』
「あ、弐号機到着の遅延は、やっぱりもめてたんですか」
『そ。国連軍がエヴァ開発のあおりで予算を削られたのをやっかんでたのよ』
「そうだったんですか……」
『あ、そうそう』

モニタに映るリツコは、話を変えて何かの操作をし始める。
『一足先におみやげ送るわね。ちょっと大きいわよ?』
「え、なんですか。Bダナン型……?」

マヤは転送されてきたファイルの名称を見て目を見張る。
「Bダナン型防壁! 先輩、あれを組んじゃったんですか!」
『長い船旅で暇だったからね。忙しいマヤにこう言っては悪いけど。
 ミサトに負けずに、二の足を踏まないよう対策はしておかなくちゃ。
 また使徒が電子戦を仕掛けるとは思えませんけどね』
「凄いなあ。先輩、ありがとうございます!」
『いきなりMAGIで動かしちゃ駄目よ? 各国支部がアクセス出来なくなって大騒ぎになるわ』
「そうですね。うーん、自分のマシンで動かせるかな」
『マヤ』
「え?」

自分のみやげ物を喜ぶマヤを眺めながら、少し目を細めるリツコ。
『どう? 疲れてない?』
「アハハ、少しだけ。でも、まだまだ大丈夫です」
『そう。悪いわね、私が出張に出てるから負担をかけちゃって』
「大丈夫です。やりがいのある仕事ですから」
『やりがい、ね』
「……シンジ君に聞かれました」
『ん?』

マヤはキーボードを叩く手を止めて、缶ジュースを一口。
「どうしてこの仕事をしてるのかって。技師として最新の技術に向かえるからとか言っちゃいましたけど」
『ウフフ、マヤらしいわね』
「人類存亡の戦いでもある、とも言いましたけど。先輩は、どうですか」
『私? そうね。マヤに似てるかな? それに、セカンドインパクトを再び起こさせるわけにも、ね』
「そう……ですか」

マヤの顔がふいに引き締まる。

「先輩」
『なあに?』

マヤはゴクリと息を飲んだ。

「それならどうしてシンジ君のお父さんを殺したんですか?」

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再び、総司令執務室。

僕はレイを部屋に置いて、またこの部屋にやってきた。
考え事をするために。

よく考えてみると、ここは本当に考えられた部屋だと思う。
壁も柱もないこの部屋。どうやって支えられてるんだと思うけど。
でも、そのお陰で物陰に隠れて監視したりすることは不可能だ。
僕がデスクから操作をすれば誰も入って来られない。
しかも、ここなら携帯電話は圏外。デスクに何か取り付けようとしてもすぐに判るらしい。
冬月さんが言っていた。ここなら誰かに指示を下すには、もっとも適した場所だと。
そう、誰かと密談をするために。

自分の携帯電話に登録した番号を検索しつつ、設置されている電話の受話器を取る。
むろん、この電話の盗聴は不可能、とは聞いている。

「加持さん?」
『やあ、シンジ君か。これは嬉しいな。君から電話を貰えるなんて』
「いえ、ちょっといいですか」

僕は広い部屋を見渡しながら考えた。
父さんはどうしてNERVを設立したんだろう。
この広くて密談に適した部屋。床にも天井にも怪しげな模様。
とても、人類のための防衛軍を率いる司令の部屋とは思えない。

それだけでも判る。
父さんの真意は、人類存亡とは別にある、と。

「加持さん。聞きたいことがあるんです」
『それは……あれかな?』
「そうですね。あれです」

そう、アスカがエヴァに乗る理由。
ミサトさんやマヤさんがNERVで勤める理由。
それと同じく、父さんは何故NERVを設立したのだろう。

そう、あれだ。

「教えてください。父さんが進めていたという人類補完計画について」








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最終更新:2009年02月16日 00:43
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