虐待 第参話

母さん。朝が来ても立ちません。
14歳にしてこんな状態でいいのでしょうか。
毎日の朝が重苦しく、部屋に帰り着く夜が待ち遠しくて仕方がありません。

朝、起きると洗顔と用足しを済ませ、食堂へ朝食を食べに向かいます。
NERV本部には数種類の社員食堂があります。
まず一つは、司令部の人や整備士などの正規職員向け。もう一つは掃除のおばちゃん達など雑用パート向け。
僕が行くのは後者の方です。僕が行く方の食堂は、安いだけが取り柄のいい加減な料理ばかりで、
選べるのは決まった定食かうどんやそば、カレーといったものだけ。
お世辞にも美味しいとは言えません。ていうか、どうすればこんなに不味く作れるか判りません。
正規職員向けの食堂はどんな食事が出てくるのか、僕は行くことが許されていないので判りません。
ここは身分で行動範囲が限られているタイタニック号なのでしょうか。
料金は給料天引きで、お金を持っていなくてもとりあえずは食べることができるのですが、
うっかり給料を超えて食べてしまっては大変です。僕には現金の持ち合わせが少ししか無いのです。

つまり、僕は給料を受け取ることになっていますが、時給は14歳だからとっても安いです。
この食費と洗濯代、そして生活必需の消耗品だけでほとんど消えてしまいます。
最初はコインランドリーを使うお金が無くて難儀しました。
しかたなく、部屋の洗面台で水洗いする他はなかったのですから。
自由に使うことが出来るのは水と電気だけ。
いつか、お金を貯めて湯沸かしのポットと湯飲みを買うのが僕の夢です。



しかし、なんといっても僕は中学生。昼間は学校に通わなければなりません。
お金がないため当分はお昼ご飯抜きになりそうで、それが一番つらいのですが、
授業なんて見つからない限り寝ていても問題なく、ここが僕の安らぎの場所になりそうです。

などという僕の考えは少し甘かったようです。
「おい転校生、お前エヴァのパイロットやろ?ちょっと顔貸せや。」
そんな関西弁で喋る鈴原とかいう奴に、さっそく校舎裏に呼び出されてしまいました。
そいつだけではありません。クラスの男子全員、いやもっと居たかも知れません。
そいつらから殴られ蹴られてボコボコにされてしまいました。
使徒が襲来する街として、かなりストレスが貯まっているのでしょうか。
いや、もっと彼らの言い分は具体的です。
「お前のおかげで俺の妹が偉い目におうとんのやぞ!」
「俺の家、テメェのロボットのお陰で半壊状態に」
「うちのじいちゃんが逃げ遅れて、家で泣いて」
「緊急避難のせいで見たい番組が」
やっぱり、なにがなんだか訳が分かりません。僕が地面に倒れても尚も彼らは責め立ててきます。
最後の一蹴りをくれてから彼らが去ろうとした時に、今までとは違った声がしました。
「非常招集、先に行くから。」
見上げてみると、包帯を巻いた女の子が一人。それは綾波レイでした。
どうやら最後の蹴りは彼女のようです。軽くぱんつが見えましたから、それは間違いありません。
が、そんなことを喜んでいる暇はありません。僕が招集されるということは、使徒が襲来しているのです。



本部に向かってみると、新たな使徒が襲来しているため大騒ぎの状態でした。
プラグスーツの着用に手間取り、怒鳴り散らされながらエヴァンゲリオンに乗って発進です。
今度は僕の周りにLCLが注がれました。
成る程、水より遙かに比重が軽く、慣れてしまえば呼吸も可能です。
でもこれ、なんだか薄いです。ちょっと息苦しいので、始めてでもなんとなく判ります。
薄めて使用されているのでしょうか。人類の存亡がかかっている割にはケチもいいところです。

さて、作戦部長であるミサトさんの指示の元に、地上に射出されて使徒の前に押し出されました。
今度も毒々しい蛇か虫けらのような姿で、やっぱり天使には見えません。
前回は僕は無意識の状態で勝手にエヴァが暴れたのですが、
今では訓練を重ねたお陰でエヴァをなんとか操縦できるようになっています。
さっそく教え込まれたとおりに照準を合わせて、使徒に向けてライフルを発射しました。
でも、なんだか効いてないようです。

「何をやっているの!全然効果がないじゃない!」
いえ、リツコさん。僕はあなたが教えた通りにやっています。
距離を詰めて照準を合わせて射撃、これ以上に何かテクニックがあるというのでしょうか。
「仕方ないわね。ミサト?」
そのリツコさんの声にしばらく黙っていたミサトさんでしたが、何かを決断したらしく僕に指示を出しました。
「シンジ君、一時退却。B-7の回収ポイントへ。」



何か嫌な予感がします。
いや、予感どころか確信を持って言えます。
間違いなく、ミサトさん達はLCLを水道水に詰め替えるつもりでいるのです。
そう、僕がおぼれかけてエヴァが暴走して勝利をなしえた、あの一戦を再現しようとしているに違いありません。
「何をしているの!早くしなさい!」
ミサトさんの怒鳴り声が聞こえてきます。
その時、僕の中で何かがはじけ飛びました。

本当のところは、たとえおぼれ死のうと構わなかったのです。
母さん、こんな僕は親不孝者でしょうか。でも、先立つ不幸だけはまのがれているので許してくれますよね。
でも、僕はそれとは真逆のことをしていました。

エヴァにプログナイフを引き抜かせ、使徒目掛けて突進したのです。
使徒はライトサーベルを鞭にしたような両腕を繰り出し、エヴァを切り裂き、突き刺して反撃してきます。
僕自身の体に凄まじい痛みが伝わります。
それは当然のこと、エヴァとの神経接続は痛感神経をもパイロットと同期を取っているのですから。
そのとてつもない痛みが僕の死にかけていた闘争本能を奮い立たせました。
激しい攻撃も構わずに使徒の胸部にナイフを突き立て、えぐりました。
偶然にも、僕が刺した箇所は使徒のコアと呼ばれる赤い球体で、
それがひび割れてはじけると同時に、使徒は完全に動きを止めました。



本部に戻った後、ミサトさんに呼び出されました。
呼び出された先に居たのはミサトさんだけではなく、あの例の黒ずくめの男達が待っていました。
彼女はとりあえず僕を平手打ちしてから一言。
「私の命令を無視したわね。」
僕が何も言えずにいると、ミサトさんは指を鳴らして男達に命じました。
男達は僕を羽交い締めにして、ドスドスと腹部に強烈なパンチを食らわせました。
とてつもない痛みです。学校でリンチを受けたときよりも更に強烈でした。

もしかしたら、ミサトさんが僕に唯一やさしくしてくれる人だと思っていたのですが、考えが甘かったようです。
「私の命令には絶対服従。いいわね?」
彼女はそう言って立ち去り、僕は男達に担ぎ上げられ自室のベッドに担ぎ込まれました。
それから、いろいろなことを考えていた気がするのですが、よく覚えていません。
僕はそのまま意識が遠のいて気を失ったか、あるいは眠ってしまいました。
最終更新:2007年03月19日 07:45
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