3人目 第六話

「少年、今度こそ喜べ!」
「な、なんですか? あ……それじゃ!」
「そうだ。お前の考える通りのことだ」

いよいよ、会える。
綾波レイと、今度こそ面会が――。

しかし、監視員が告げた報告はこう。
「お前の成績の悪さを心配して、教官が直々に講師をしてくださるそうだ。さあ、喜べ!」
「ちょ、ちょっと! 何が考えている通りなんですか!」
「何を言うか。勉強こそが学生の本分ではないか」
「ま、まあ……そりゃそうですが」
「そして、再試験のチャンスがおまけ付き。どうだ、嬉しいだろう」
「はい、とっても嬉しいです……」

はい、シンジは苦笑いで大喜びのご様子です。
そんなわけで、げんなりしながら教官と向き合う日々の、その果てに。

「よく頑張ったぞ、少年。やれば出来ると、教官のお褒めの言葉だ」
「ど、どうも……」
「そんなわけで、俺からのご褒美だ。望みの物を持ってきてやったぞ」
「え? そ、それでは……!」

それは古びたチェロが一台。
「ちゃんとお前の履歴書はチェックしてるのだ。嬉しいだろう、少年」
「はい、とっても嬉しいです……」

間違いない。
監視員はワザと論点を外して楽しんでいる。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

女性監視員は耳をそばだてた。
「あら、良い音色。バイオリン……いや、チェロね」

その時、内線が鳴る。
彼女はそっと受話器を取った。

「レイ? ああ、心地よさそうに眠ってます――」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「だそうだ。少年」

レイの居る施設の外庭で、監視員はシンジに報告した。
シンジは手を止めて演奏を終了。

――レイには耳に届いたのかな? 聞いてくれたかな?

直に聞かなければ判らない。
ただ、眠っているという報告だけなのだ。
しかし、それは不愉快ではないという証明。

(まあ、いいか。それだけでも)
シンジはチェロをケースに収納しながら、微笑みを浮かべて頷いた。

レイはシンジがチェロを弾くことを知らない。
それは3人目だけでなく、2人目ですら知らないことだ。
それでもいい。それでもレイの耳に届いたのなら。

また、レイに弾いてあげよう。
何時の日か、顔を合わせる日が来る筈だから。

――と、何を思ったのか。
監視員はチェロを片付けようとするシンジの手を止めた。

「待て、次は俺だ」
といいながら、強引にチェロの弓を監視員は取り上げる。

シンジは素っ頓狂な顔で驚いた。
「は?」
「俺のとっておきを聞かせてやろう――では行くぞ、『熊ん蜂の飛行』」
「そ、そんな曲は止めてください! レイが目を覚まします!」
「何だと? 俺のとっておきをやらないうちは……」
「あーもう、帰る時間ですよ! ほら、とっとと車に乗ってください!」

これでは、どちらが監視しているか判ったものではない始末。
実は、そのチェロは監視員のお下がりという訳でした。

(続く?)
最終更新:2009年04月01日 23:23
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