「少年、今度こそ喜べ!」
「な、なんですか? あ……それじゃ!」
「そうだ。お前の考える通りのことだ」
いよいよ、会える。
綾波レイと、今度こそ面会が――。
しかし、監視員が告げた報告はこう。
「お前の成績の悪さを心配して、教官が直々に講師をしてくださるそうだ。さあ、喜べ!」
「ちょ、ちょっと! 何が考えている通りなんですか!」
「何を言うか。勉強こそが学生の本分ではないか」
「ま、まあ……そりゃそうですが」
「そして、再試験のチャンスがおまけ付き。どうだ、嬉しいだろう」
「はい、とっても嬉しいです……」
はい、シンジは苦笑いで大喜びのご様子です。
そんなわけで、げんなりしながら教官と向き合う日々の、その果てに。
「よく頑張ったぞ、少年。やれば出来ると、教官のお褒めの言葉だ」
「ど、どうも……」
「そんなわけで、俺からのご褒美だ。望みの物を持ってきてやったぞ」
「え? そ、それでは……!」
それは古びたチェロが一台。
「ちゃんとお前の履歴書はチェックしてるのだ。嬉しいだろう、少年」
「はい、とっても嬉しいです……」
間違いない。
監視員はワザと論点を外して楽しんでいる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
女性監視員は耳をそばだてた。
「あら、良い音色。バイオリン……いや、チェロね」
その時、内線が鳴る。
彼女はそっと受話器を取った。
「レイ? ああ、心地よさそうに眠ってます――」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「だそうだ。少年」
レイの居る施設の外庭で、監視員はシンジに報告した。
シンジは手を止めて演奏を終了。
――レイには耳に届いたのかな? 聞いてくれたかな?
直に聞かなければ判らない。
ただ、眠っているという報告だけなのだ。
しかし、それは不愉快ではないという証明。
(まあ、いいか。それだけでも)
シンジはチェロをケースに収納しながら、微笑みを浮かべて頷いた。
レイはシンジがチェロを弾くことを知らない。
それは3人目だけでなく、2人目ですら知らないことだ。
それでもいい。それでもレイの耳に届いたのなら。
また、レイに弾いてあげよう。
何時の日か、顔を合わせる日が来る筈だから。
――と、何を思ったのか。
監視員はチェロを片付けようとするシンジの手を止めた。
「待て、次は俺だ」
といいながら、強引にチェロの弓を監視員は取り上げる。
シンジは素っ頓狂な顔で驚いた。
「は?」
「俺のとっておきを聞かせてやろう――では行くぞ、『熊ん蜂の飛行』」
「そ、そんな曲は止めてください! レイが目を覚まします!」
「何だと? 俺のとっておきをやらないうちは……」
「あーもう、帰る時間ですよ! ほら、とっとと車に乗ってください!」
これでは、どちらが監視しているか判ったものではない始末。
実は、そのチェロは監視員のお下がりという訳でした。
(続く?)
最終更新:2009年04月01日 23:23