「あ、監視員さん! 綾波との面会は……」
「まだだ。落ち着け、少年」
もはやシンジにとって、レイとのコミュニケーションを取ることだけが全てだった。
いや、他にも喜ばしいことはちゃんとあるのだが。
「喜べ、少年。ここがお前の新しい部屋だ」
「おお、台所付き」
「そうだ。これからは昼食は出ない。厨房から材料を貰って自分で自炊をするのだ」
「……あれ? これって、本当に喜ばしいことかな?」
確かにシンジが首をひねるのも無理はない。
見方を変えれば面倒なだけ。
「いや、少年よ。これは喜ばしいことなのだ。好きな時に好きな物を作り、好きな物が食べられる」
「ああ、そうですね」
「夜食にカップラーメンでも差し入れてやろう。しっかり勉強しろよ、少年!」
「は、はあ……」
……差し入れ?
そうか、成る程!
シンジは何かを思いついたらしい。
さっそく彼はジャガイモなどを厨房に無心した。
そして彼が拵えた物。
それは大ぶりでずっしりと重いスイートポテト。
監視員は少し苦笑い。
「男が女に菓子を作って渡すとはな……これも時代か」
「あの、駄目ですか?」
しかし、監視員はニヤリと笑う。
「任せておけ、少年」
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女性監視員は包みの中を点検してからレイに渡す。
「あなたに差し入れだそうです。シンジ君から」
「……?」
「うわ、美味しそう。それじゃ、紅茶でも入れてきますね」
どうやらレイの待遇は本当に悪くないようだ。
女性監視員の対応からして、家庭的な空気を漂わせている。
そして、レイは紅茶を片手にスイートポテトをぱくり。
女性監視員は感想を尋ねる。
「ほら、返事をしないといけないから。どう?」
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監視員はシンジに伝達する。
「感想はこうだ――『甘い』、以上!」
「監視員さん、それって感想じゃありません……」
そりゃ確かに甘いだろう。スイートポテトなのだから。
美味しいとかそういうことではなく、甘い味がした、という単なる報告。
そんな報告をされても、シンジは甲斐がないだろう。
「いや、それがな? 先方の監視員が美人でなあ」
「そ、そんな報告は要らないですよ」
監視員はニンマリと思い返している。
「綾波レイも可愛いし――ずっとあそこに居たかったぞ、少年!」
「勝手に行ってくりゃいいじゃないですか! ホントにもう!」
面会をまだ許されていないシンジは憤慨する。当然だろう。
しかし、監視員は望みのままにもう少し滞在すればよかったのだ。
それならシンジにとって喜ばしい報告が出来た筈なのに。
レイはお腹いっぱいで晩ご飯が食べられなくなるほどに、差し入れを完食してしまったのだから。
(続く?)
最終更新:2009年04月01日 23:17