3人目 第五話

「あ、監視員さん! 綾波との面会は……」
「まだだ。落ち着け、少年」

もはやシンジにとって、レイとのコミュニケーションを取ることだけが全てだった。
いや、他にも喜ばしいことはちゃんとあるのだが。

「喜べ、少年。ここがお前の新しい部屋だ」
「おお、台所付き」
「そうだ。これからは昼食は出ない。厨房から材料を貰って自分で自炊をするのだ」
「……あれ? これって、本当に喜ばしいことかな?」

確かにシンジが首をひねるのも無理はない。
見方を変えれば面倒なだけ。

「いや、少年よ。これは喜ばしいことなのだ。好きな時に好きな物を作り、好きな物が食べられる」
「ああ、そうですね」
「夜食にカップラーメンでも差し入れてやろう。しっかり勉強しろよ、少年!」
「は、はあ……」

……差し入れ?
そうか、成る程!

シンジは何かを思いついたらしい。
さっそく彼はジャガイモなどを厨房に無心した。

そして彼が拵えた物。
それは大ぶりでずっしりと重いスイートポテト。

監視員は少し苦笑い。
「男が女に菓子を作って渡すとはな……これも時代か」
「あの、駄目ですか?」

しかし、監視員はニヤリと笑う。
「任せておけ、少年」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

女性監視員は包みの中を点検してからレイに渡す。
「あなたに差し入れだそうです。シンジ君から」
「……?」
「うわ、美味しそう。それじゃ、紅茶でも入れてきますね」

どうやらレイの待遇は本当に悪くないようだ。
女性監視員の対応からして、家庭的な空気を漂わせている。

そして、レイは紅茶を片手にスイートポテトをぱくり。
女性監視員は感想を尋ねる。
「ほら、返事をしないといけないから。どう?」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

監視員はシンジに伝達する。

「感想はこうだ――『甘い』、以上!」
「監視員さん、それって感想じゃありません……」

そりゃ確かに甘いだろう。スイートポテトなのだから。
美味しいとかそういうことではなく、甘い味がした、という単なる報告。
そんな報告をされても、シンジは甲斐がないだろう。

「いや、それがな? 先方の監視員が美人でなあ」
「そ、そんな報告は要らないですよ」

監視員はニンマリと思い返している。
「綾波レイも可愛いし――ずっとあそこに居たかったぞ、少年!」
「勝手に行ってくりゃいいじゃないですか! ホントにもう!」

面会をまだ許されていないシンジは憤慨する。当然だろう。
しかし、監視員は望みのままにもう少し滞在すればよかったのだ。
それならシンジにとって喜ばしい報告が出来た筈なのに。

レイはお腹いっぱいで晩ご飯が食べられなくなるほどに、差し入れを完食してしまったのだから。

(続く?)
最終更新:2009年04月01日 23:17
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