虐待 第拾六話

「よっ……ほっ……はっ……ほっ……」

ああ、母さん。
今、トウジが僕の体を掃除してくれているんです。
体と言っても、身につけている装甲のことなんですけどね。
「見とれや。兄ちゃんがお前を、そんでこの街を守ってやるさかいな。」
そんなことをぶつぶつ言いながら、掃除に専念するトウジ。
意外と良い奴なんですよ、この関西人。
「聞いたで。あんた、あんな訳の判らん使徒って連中と、よう戦って来たんやなぁ。」
あんた、というのは僕が融合する以前の初号機のこと。
ちょっとは碇シンジのことにも触れて欲しいのですが、なかなかの持ち上げ上手です。
「俺かてやるで。もう避難所でコソコソする必要はないんや。あんたと一緒にぶちのめせるんや。」
意気込むトウジ。
彼はこうして僕と、というか初号機に語りかけることで自分のポジションを確保した模様。
シンクロ率も徐々に上がっているらしく、NERV本部にとっても期待の星。
僕を袋にした相手だったので最初は引っかかるものがあったのですが、
特別に許されて車椅子で登場した妹さんの姿を見た瞬間、そんなものはLCLと共に吐き捨てました。
「兄ちゃんを頼むでぇー頑張ってやぁー」
そう言って僕に可愛い手を振るトウジの妹。名前は、えーと何だっけな。

母さん、やはり僕のポジション確保の方法は女性だったのですね。



後から現れた相田ケンスケってのはよく判らない奴です。
「相田ケンスケであります!自分はどんな苦しみにも耐えて見せます!作戦部長殿ッ!!」
そんなことを叫びながら敬礼するケンスケ。何なんでしょうね、こいつ。
さっそくミサトさんが無言でビンタを喰らわせ、黒服達にボコらせました。
やるね、ミサトさん。

それでもケンスケは幸せそう。なんでもミリタリーオタクらしいのです。
そしてエヴァこそ軍事力の最先端。
もう彼は喜々として分厚いマニュアルを全て頭にたたき込み、
より複雑な弐号機の操作も完璧にこなしているとか。シンクロ率はともかくとして。
なんだかこの新コンビ、仲も良いらしく期待しても良さそうです。

そして、ついに使徒の登場。

「よっしゃあッ!!行くで、初号機はん!」
はいな、あんさん!

僕はトウジに話しかけることは出来ないんですが、こんな感じで僕らのデビュー戦が始まりました。

でもね、母さん。
やっぱり世の中、そんなに上手くいかないんですね。そして使徒もバカではありません。



「うおおおっ!!通天閣が燃えている!ああっ食い倒れのおっさんが!」

今度の使徒、もはやエヴァや街は眼中になく、
パイロットそのものをターゲットにしているらしいのです。
使徒が放つ御光によって、過去の記憶を掘り起こされ精神がむしばまれていくトウジ。
しかし、ミナミの街で一体なにがあったんでしょうか。

使徒の位置は大気圏外。そんなところから攻撃してくるなんて卑怯もいいところです。
いや、そうじゃないんですね。
賢いんですよ。使徒の方が。
もはや近接戦闘や並の飛び道具は無意味。
弐号機、相田ケンスケの出撃は見送り。

そんな訳で、スナイパー綾波の登場。
使徒がトウジを苦しめているスキに、巨大な長距離砲を構えて一撃必殺。
流石は綾波、相変わらず格好いいですね。

もしかして、これは計画通りだったのでしょうか。
トウジ、僕達は囮でしかなかったみたいだね。
といっても今の僕には彼を慰める術がありません。




そして次に登場したのは、螺旋状の蛇のような姿をした使徒。

物理攻撃と思いきや、エヴァに浸食するタイプのよう。
勇んで初号機を共に出撃した弐号機が今回の餌食。
これでは流石の綾波も、そしてデビューしたてのトウジでは手の出しようもありません。

「おおおおッ!!第三新東京市に栄光あれッ!」

この新しい街のどこにそんな栄光があるというのだろう。
弐号機の操作を頭にたたき込んだ結果がこれ、と言う訳か。
そんな雄叫びを残して自爆を遂げたケンスケ……そんなことだけは、止めて欲しかった。
残された者にとって、これほど辛いことはないのですから。

使徒が過激な精神攻撃を強いたこともあるけれど、
わずか二戦、たったの二戦で精神を犯され、もはやボロボロになってしまったトウジ。
もはや初号機に搭乗するのは無理なのでは、との整備士達の噂が聞こえてきます。

そんな彼を無理矢理に引きずっていくミサトさん。
しかし見覚えがあります。その彼女の苦悶の表情が。

母さん。こうして繰り返されていくのですね。これって、なんなのでしょうね、母さん。



因果応報の果てに、いったい何があるのでしょう。
使徒を全て倒した後、人類の平和が戻ってくる?本当に?

「そうだね、これがリリン達の悲しい性。だからこそ、かの樹を追い求めて来たという訳かな?」

……この声、誰?

「僕は第17使徒タブリス。君達リリンにそう名付けられたよ。
 アダムの分身、リリンのしもべ、エヴァンゲリオン。
 いや、君のことはこう呼ぶべきだね。碇シンジ君?」

目の前に立っている者。涼やかな笑顔で僕を、初号機を見ている一人の少年。
そして……使徒だって?

「おい、渚カヲル。司令に挨拶するから早く来い。」

動くはずもない頭をひねる僕を残して、
その使徒タブリスは僕にニヤリと笑って去っていきました。
最終更新:2007年03月19日 14:12
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