第七話

「シンジィー!一緒に泳ぎに行きましょーっ!」
アスカは相変わらずだ。なかば強引に市内のアスレチックプールへとシンジを引っ張り込んでいく。
「あーん、水着が上手くきれませーん!ちょっとおっぱい持っててクダサーイ!」
「水着ないのですかー?スッポンポンでもいいですよー!私もスッポンポンになるから恥ずかしくありませーん!」
「ほら!シンジも早く脱ぐデス!股間押さえて何処に行くデスカー!」
「ああ、シンジ様。おトイレはこちらですよ。」
力ずくのセックスアピールを続けるアスカのお陰で暴発寸前のシンジを引きはがし、トイレへと伴うミサト。
そしてアスカに水着を付けなおさせ、やれやれと溜息をつく。
しかし、アスカの立場がどんなものなのかがサッパリ判らない。
これほど強引にモーションをかけることなど他の者には許されていないのだ。
プールを手配したのはアスカだが、支払いを見てみると宛名はNERV本部となっている。
つまり、NERV内部でかなりの権限を持っているわけだ。もしかしたらシンジの次ぐらいかもしれない。
(一番わからないのはNERVと、その背後に立つゼーレの意図……シンジ様を一体どうするつもりだろう……)
そんなことを頭に巡らせているミサトに、伊吹マヤが近づいてささやく。
(今、シンジ様が使用しているのは20キロのダンベルです。かなりストレスが溜まっているようですね……)
(そうね……ああ、しゃがんじゃ駄目よ?シンジ様、露骨なパンチラはお好きじゃないみたい。)
(そ、そうなんですか。気を付けます。)
シンジのNERV本部における付き人にして、MAGIのメインオペレーター伊吹マヤ。
ミサトにとって出来れば味方に付けたい人材だ。素朴な雰囲気がシンジの股間にもウケが良い。
しかし、赤木リツコ、司令であるシンジの実父ゲンドウ、そしてゼーレという連なりが気がかりではあるのだが。


アスカは尚もシンジに対して強引だ。
「ほら、ダンベルばっかりじゃ筋肉のバランスに悪いですヨー?一緒に泳ぐデース!」
そういってシンジの手を引こうとするアスカ。
上下にきっちりとしたジャージを着込んでいるシンジは、花も恥じらう処女のようだ。
本当は手当たり次第に女達をはべらせることは可能な立場なのに、
彼自身の純真さがそうはさせまいと頑張っているのだろうか。

今度はシンジにどうやって助け船を出せばいいだろう、と悩むミサト。
下手な口出しは禁止事項に抵触する。やりづらさを感じながら周りを見渡していたが……
「あ……」
何故かシンジ一行に付いてきていた綾波レイが、プールサイドでクタクタと崩れるように床に倒れたのだ。
慌ててミサトは側に駆け寄る。そして助け起こそうと彼女の体に手を触れた時、
(……ん?)
ミサトは眉をしかめる。やがて、シンジも駆けつけ、以前と同様に専属の看護婦を呼び寄せる。
そして看護婦もまた気付いたらしく、ミサトだけに聞こえる小声でささやいた。
(ミサトさん……仮病です。)
(判っているわ。この子に調子を合わせて。)
(……はい。)
そしてシンジは、この場を逃れるチャンスとばかりに期待通りの命令を下した。
「綾波、病弱なのかな……よし、今日はお開きにして車で送って行こう。」


今日は上手く逃れることが出来たのだが、今後のことを考えると頭が痛む。
シンジの側に使えて作戦部長として使徒との戦いを命じられた葛城ミサト。
しかし、今では何と戦っているのか訳がわからない状態だ。
シンジに対する苛烈な待遇、そのおかげで破綻しかねないシンジの精神と性癖、そして、アスカ。
それらをシンジから守ることを考えると、百万匹の使徒と単身で戦う方がよっぽどましだ。
つかみどころがなく、最終的に何を狙っているのか訳がわからない。
とりあえず、意外にも綾波レイが気遣いを見せてくれたことがミサトにとって心強い限りであった。

シンジ邸へと帰り着き、あいかわらず悩み続けるミサトにメイドの一人が問いかける。
「ミサト様。本部から使徒が発見されたとの報告ですが、シンジ様はトイレでオナニー中のです。」
「それじゃシンジ様が達したあと10分後にお茶をお出しして。シンジ様への報告は更に30分後。」
「かしこまりました。」
優秀なメイド達だ。
どんな用件でシンジがトイレに向かったのか、さらに射精するタイミングまで把握していることだろう。
しかし、シンジが気の毒でしかたがない。
これほどの女達に囲まれながら、何が悲しくて自己処理で済ませなければならないのか。
できればトイレに踏み込み手伝ってやりたい思いで一杯だし、メイド達も同じ心境だろう。
しかしミサト達にはシンジが望まない限り許されない行為であり、内気なシンジでは言い出しにくそうだ。
このままでは本当にシンジの性癖がおかしくなってしまう……なおいっそう、ミサトの悩みはつのるばかりだ。


さて、使徒戦である。
「はいはーい♪私がマグマに潜るデース!シンジに格好いいとこ見せたいデース!」
と、アスカが張り切って挙手し、初号機のシンジを出すにはあまりに危険との判断もあり、
今度の作戦は弐号機主体で行われることが認められた。
発見されたのは浅間山の火口の中に、局地決戦用に装備された弐号機でさっそうと飛び込むアスカ。
「キーッ!使徒、硬いですぅー!コアってどれなんですかァー!きゃーッ噛みつかれましたァーッ!!」
これまでにない使徒の凶暴ぶりにミサトを含む司令部は騒然とする。
「リツコ……なんだか主人でないと判って牙をむいた飼い犬みたいね。」
「どういう例えなのよ、ミサト……ああっシンジ様!駄目です!いけません!」
アスカの危機と見て、初号機でシンジが飛び込んだのだ。
結果は面倒なので簡単に説明すると、
初号機を見て使徒はアスカを離して小躍り状態、コアを開いて「さあどうぞ」、コアを破壊して使徒殲滅、以上。

「きゃーっシンジありがとォーッ!!お礼は近くの温泉でゆっくり……」
「シンジ様、どうかしましたか?これは大変、すぐに帰って手当をしなければ!誰か車を!」
「え?え?別に僕はそれほど……あの、ちょっと……」
たたみ掛けるようにしてアスカを遮り、シンジを車に引っ張るミサト。
シンジの体調が悪いとなれば、天下御免でシンジ自身の意志を無視できる。
むろん、シンジは怪我一つしていないのだが。
(この手に限る……あんまり繰り返して使えないけれど……)


そうやってシンジを車に押し込み、ほっと一息ついたミサトに後ろから声をかける男が一人。
「ハハハ。良い判断だな、葛城。」
「え……?」
「あの温泉、NERVの発注で混浴風呂へと改造されていたからな。正にシンジ君の貞操の危機だったよ。」
「……なんで、あんたがここにいるのよッ!」
「どうも♪」
ミサトに声をかけたのは、遅ればせながら登場した加持リョウジであった。
最終更新:2007年02月22日 23:47
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